初めて歩いて国境を越えた・・・
広州で無事落ち合った僕らは、広州のベトナム大使館でビザの発給を受ける際、中国・ベトナム間に新しい国境が開いた事実を知った。それはガイドブックにも記載されていない未知の国境だった。
誰も通ったことのとのない道を通り、誰も知らない土地に至り、誰も会ったことのない人達と出会い、誰も食べたことのない食べ物を食べる。それが旅の醍醐味。
その国境を越えると、カトリーヌドヌーブ主演「インドシナ」で脚光を浴びた「ハロン湾」を経由してハノイに入ることができる。
僕らは、迷わずその国境を目指すことに決めた。広州から、列車・バスを乗り継ぎ国境の町へと向かった。

かつてジョン・レノンは「国境のない世界を想像してごらん」と歌った。
国境がなくなった世界では、人々が自由に往来し、信仰の違いは残っても、文化や言語や風習や習慣などが緩やかに融合し、経済の格差がなくなり、戦争もなくなり、飢えて死に逝く人もいなくなるかもしれない。それは理想の世界になるのかもしれない。
でも旅人にとっては旅の醍醐味を一つ失うことにもなるんじゃないかとも思う。
国境とは旅人にとって極めて魅力的な響きを伴った特別な場所で、当時の僕らには、国境越えは一種の刺激的な儀式のように思われた。その一線を越えると新しい場所に辿り着ける、という新鮮な期待感を常に伴った。
国境は文化の純粋さを保つための一種の境界線の役割を果たしており、国境の町ではその両国の文化の微妙な融合具合がひどく魅力的であったりする。猥雑な感じだったり、胡散臭かったり・・・
当時、ベトナムに入国するには、ビザの他にコレラの予防接種を受けたことを証明するイエローカードの取得が必要だった。僕らは持っていなかったが、国境の町の保健所で取得できるとあたりをつけていたので、到着後、町の中を探して回った。ようやく探し当てた保健所は看板が崩れ落ち廃墟と化していた・・・
愕然としたが、こんな時開き直るのは女性の方が早いようで「どうなるんだろう・・・」と不安いっぱいの僕は「なんとかなるから・・」という妻にひっぱられるようにイミグレーションに向かった。
そしてなんとかなった。
イエローカードは中国側のイミグレの机の上にうずたかく積まれ販売されていたのだ。
日本円で数百円支払えば売ってくれる。予防接種を受けていないにも関わらず、受けていると証明するイエローカードを国の入出国を管理する機関が販売している。
もちろん買ったけど、これには唖然とした。そしてなんか嬉しくなった。
そのいい加減さがおかしく、そんないい加減な国境を越えたことが嬉しかった。
中国とベトナムは一本の川で区切られていた。橋を渡って国境を越える。橋の上に線がひかれている。こちらが中国、あちらがベトナム。
そして、国境を越えるとピカピカの便器が僕らを待っていた・・
つづく・・
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